まめはな雑記

台湾迷の日本人による、旅行記、読書録、その他メモ。台湾以外のネタも少々含みます。

国会改革法の強行採決に対する抗議デモ

5月中頃から、台湾の立法院が荒れている。5月17日には立法院で乱闘がおこり6人が救急搬送された。5月21日、24日には騒動が国会の外にまで広がり、台北市やその他の都市で抗議デモが起こった(28日にもデモが予定されている)。

今回は、自分の頭の整理も兼ねて、なぜ国会がもめていて、かつその騒動が拡大したのかをまとめる。

1.立法院の現状:2024年の選挙で野党優位へ

台湾の立法院は、日本の国会に相当する。立法院では、選挙で選ばれた立法委員(国会議員に相当)が、法律の提案・審議・採択を行う。

立法委員は4年に一度の選挙で決まり、現在の議席は113。直近の選挙は2024年1月に行われた。2001年以降の議席は以下の比率で推移しており、2024年の選挙では3つの政党がいずれも過半数議席を有していない「三党不過半」状態となっている。

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(出所)中央通訊社

ただその構成を見ると、与党の民進党が51議席をに対し、野党は国民党(52)+民衆党(8)となっており、野党が優位になっている。民衆党は民進党とも国民党とも違う、第三政党として、224年の選挙で躍進したが、基本的には「アンチ既存勢力」がポリシーなため、執政政党である民進党に反発を示している。

なお、総統・副総統および行政院(内閣に相当)は与党である民進党が握っているが、立法院は野党が優位であり、日本人になじみのある言い方にすると内閣と国会が、ねじれている状態だ。

2.国会改革法の概要

今回、問題となっているのは、立法院で議論されている「国会改革法」である。これは特定の法律の名前ではなく、国会改革につながる法律の総称であり、立法院職権行使法、刑法など5つの法律が含まれる。

これらの法律では立法院および立法委員のルールや権利が定められており、今回その一部の改正が試みられている。

3.今回の抗議の論点

続いて、国会改革法をめぐって、なぜ立法院の対立と抗議デモが生じたのかを整理する。

今回問題になっているのは、主に国会改革法の①内容と、②プロセスである。与野党ともに国会改革法の案を出しているが、現状、野党によって立法院の権限を強める内容の法律が、十分な議論を経ず、一部の定義があいまいなまま、野党のごり押しで成立しかけている。これに与党・一般市民が抗議、というのがこのブログのタイトルにもなっている、抗議デモの背景だ。

3.1.内容の問題

まず①内容について整理する。「立法院の権限を強める」とはどういうことか。野党が提案し、与党およびデモ参加者の反発を招いている内容は以下のとおり。「しなければならない」と「できる」など、強制度合いの表現はもしかすると正確でないかもしれないので、これをうのみにしない方がいいと思うが「改革」という名の下で、本来立法院からは独立した存在である、総統、企業、軍、団体、他の行政機関に対する、立法委員の権利が強まっていることはわかると思う。

  • 総統の立法院への国勢報告を常態化
    • 新しく就任した総統は1か月以内および毎年2月1日に、立法院に国勢状況を報告する。報告に対して立法委員が質問した場合、総統はその場で回答しなければならない。
  • 立法院の聞き取り調査権
    • 立法委員は政府機関や関係者(軍隊、企業、団体含む)に聞き取り調査を行うことができる。被調査者は5日以内に資料を提供しなければならない。被調査者が関連規定に違反した場合は、立法院の決議を経て10万元の罰金を科す。
  • 国会侮辱罪
    • 刑法に国会侮辱罪(藐視國會罪)を増設。国防・外交上明らかに差し迫った損失がある場合や法律で機密事項と認められた場合、議長の同意がある場合を除き、聞き取り調査は欠席、回答と資料提供の拒絶、逆質問はできず、こうした規定に違反した場合は2万元以上20万元以下の罰金を科す。また、違反した行政職員は5名以上の立法委員の署名により弾劾・処罰のために移送される。

    • 行政職員が立法院の聞き取り調査を受け、秘匿または明らかに虚偽の発言をした場合、1年以下の懲役、拘束、または20万元以下の罰金を科す。

  • 人事同意見の強化
    • 監察院、司法院、考試院の院長・副院長などの人事審査は1か月以下であってはならず、公聴会を実施し、記名式投票で決定する。候補者は学歴、財産、税金、刑事事件歴などの情報を提供しなければならない。審査期間に情報の隠蔽や虚偽の発言があった場合は、2万元以上20万元以下の罰金を科す。

3.2.プロセスの問題

3.1.でざっくり紹介した内容は、きちんとした審議を経ないまま、採決プロセスにはいってしまった。ここで審議プロセスを理解する必要がある。

三読制

台湾では、法案成立に「三読」という手続を経る必要がある(日本は、大日本帝国憲法下ではこのやり方を採用していた)。政府/立法委員による提案で若干プロセスが異なるようだが、今回焦点を当てている国会改革法は後者であるため、その流れを追う。

立法委員による提案は、一読で内容が説明され、審議が必要とされた法案は委員会へ送られる。委員会はより専門的な話し合いを行う場で、ここで詳細を詰めたのち、コンセンサスが得られれば二読、三読に進む。コンセンサスが得られない場合は、党団協商という、所属党グループ幹部や異なる意見を持つ議員を招集し協議する会議で結論を出したのち、二読、三読へ送られる。三読は、議案内容の相互抵触や憲法・他法律への抵触がある場合を除き、文字の修正だけが可能である。三読がおわる(=最終可決)された法案は、総統の名の下で公布される。

4月15日の委員会

本来はこうしたプロセスをたどらなければならないのだが、今回は、法案の専門的な話し合いを行う委員会で、ほぼ議論が行われていなかった。具体的に言うと、4/15の委員会で、野党が「意見ある人いますか」と呼びかけておきながら、各条文の議論はほぼせず「保留(=委員会での議論は終わりで党団協商へ送る)」としていた。

たしかに党団協商は委員会でコンセンサスがられない場合に法案が送られる先ではあるのだが、意見がある=コンセンサスが得られないとは限らない。そのため、ここで議論をせずに法案を次々「保留」にしていったのは問題であろう。

三読の説明も併せ、この委員会の様子(12:50~)は以下の動画で見ることができる。委員会の様子は見るに堪えないというか、台湾の人々を怒らせるには十分なくらい雑であった。なお、この動画では、国会改革法の審議にかかかった時間を、過去の議論が紛糾した法案(同性婚、サービス貿易協定)との比較もしていて、参考になる。

www.youtube.com

ほかにも、採決方法が急に挙手になったりと、不透明な部分があるようだ。

4.抗議デモ

こうした国会改革法が審議不十分なまま「二読」プロセスを通過しつつあるなかで、野党の強行突破に抗議する声が相次いだ。5月21日と24日には立法院および各都市でデモが起こり「沒有討論, 不是民主(議論なしに民主主義はない)」をスローガンに叫んでいた。このスローガンがよく聞かれていたことから、法案の①内容以上に、②不十分な審議が怒りを招いているのだろうか、と思っている。いずれにしても、議論が不十分であれば内容も精査されないため、①内容と②プロセスは表裏一体の関係にあるだろう。

私が参加したデモは、24日の夜に立法院の周りで実施されていたもので、金曜日の22時過ぎにもかかわらず、たくさんの人でにぎわっていた。これだけの人が夜路上にいるのは、選挙集会以来だと思うが、選挙集会に比べると、プログラムなどはないので自由に座ったり、立ったり、それぞれの方法で抗議の意を示している人が見られた。

台北では10万人が集まって抗議をしたそう

スローガンを掲げる人々

スローガンを掲げる人々

スローガンを掲げる人々

立法院の柵につけられたスローガン

野党の市長(立法院にはいないけど)の罷免を求める署名

比較的道が広い場所で座り込んで意思表明する人たち

デモは、スローガンこそ強烈なものはあるが、雰囲気は和やかで、仮設トイレ、授乳スペース、水やお菓子の配給などもある平和的なものだった。喧嘩や大声をあげる人はおらず、ボリュームの大きさで言えば、ステージなどでされている演説をみなさん聞いていらっしゃったというかんじ。ものものしい雰囲気はなく、ここに来ることで意思表明をしている人が多い印象を受けた。

自分がデモに行ったタイミングは、すでに解散し始めている人もいるときだったので、混雑回避のためのアナウンスや、最終バスの案内、そして次回のデモの予定が訪欧されていた。つぎは5月28日(火)とのことで、おそらくまた立法院周辺ではデモが発生すると思う。

平和的ではあるが、人は多く、正直人混みが苦手な人は気分が悪くなってしまう(酸素が薄く感じた)かもしれないので、軽いノリで行くのは避けたほうがいいかもしれない。行くのであれば水と雨具(傘は危ないのでカッパ)をもって、動きやすい服装で。

5.野党はな法案の強行採決を試みたのか

冒頭にも記載した通り、2024年1月の選挙で当選した立法院は2月に着任し、法案の検討を進めてきた。他方、同日に行われた選挙で当選した総統・副総統は5月20日に就任した。

個人的な想像だが、おそらく野党は、新総統・副総統の就任前にこの法案を採決し、改革案にあった「総統の立法院への国勢報告を常態化」の実施をもくろんでいたのだと思う。しかし、そうした改革は(その内容自体にも、総統と立法院の関係と立場を考えると若干問題があるようなのだが)、短期間で強行採決するにはあまりに重い内容だった。そして、その重い内容を十分に審議せず法律にしてしまうというのは、政治権力の乱用を大変嫌う台湾人を怒らせるには十分すぎるほど乱暴な行為であった。

今回の件に限らず、台湾で政治に関する話をきくと、民主化以前の独裁時代の経験から、独裁や、権力の集中を懸念する声はおおい。もちろん、そうした視線は3期連続で政権を担う民進党にも向けられている。ただ、今回についていえば、長期政権を担う民進党への不満よりも、十分な議論をせずに、議席の数に基づいた「数の暴力」で議論不十分な法案を通そうとすることのほうが危機的に受け止められたのだろう。民進党の封封じ込めを狙い、野党が数の力を用いた結果、逆に野党自身が力の使い方を考え直せと言われているように見える。

参考

國會改革四大影響一次看 形同為中國敞開大門?年輕人為何焦慮?|天下雜誌

國會改革法案朝野政黨吵什麼?看懂4大攻防重點 - 新聞 - Rti 中央廣播電臺

https://www.bnext.com.tw/article/79186/why-people-protest-in-front-of-the-legislative-yuan?

立委衝啥毀Lesson 1 - 《立院出代誌:為什麼我們關心的法案總是過不了?》

国会改革法案、21条文が第2読会通過 残る審議は24日に再開 与野党攻防/台湾 - フォーカス台湾

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