まめはな雑記

台湾迷の日本人による、旅行記、読書録、その他メモ。台湾以外のネタも少々含みます。

【読書録】オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

先日、唐鳳さんの『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』を読みました。

今回はその読書録をまとめたいと思います。

 

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この本は

出版社 : プレジデント社

発売日 : 2020/11/29

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る | オードリー・タン, プレジデント書籍編集チーム | ビジネス・経済 | Kindleストア | Amazon

新型コロナの防疫に台湾が成功した後に出版された本、ということで、マスクアプリやその活用の礎となるようなオープンガバメントについても言及されている。

 

概要

ITをツールとして捉え、ITを通じて民主主義や社会をどうやって良いものにしていけるか(格差解消やマイノリティの声を拾うことなど)を優しい言葉で綴った本。

ITがテーマではあるものの、本全体を通して柔らかい雰囲気で、筆者の経歴にもふれつつ今後のデジタルやITの活用について語っている。 冒頭にも書いたが、ITはツールなので、ただ導入しても社会が自動的に良くなるとは限らない。ITを活用する政府や市民が、声をあげ、お互いの話に耳を傾けることなしにはITの本領は発揮されないというこおも示唆されている。

 

細かいメモ

①専門知識を有する政治家が複数人で迅速な確認をしつつ意思決定をしたことと、②政府と国民間の信頼、が新型コロナ防疫成功の一要因だった。

 もともと、現政権(民進党)には医療関係者が多いが、専門知識をもつ彼らが迅速に意思決定を行ったことが防疫成功につながったよう。『台湾のコロナ戦』という本でもこの点については指摘されていたが、本書では一歩踏み込んで、単に専門家がいたことだけでなく、公衆衛生の基礎知識を有する人材が複数いたことで、情報を再確認 し、お互いに意見を出しあい、対策を考えることができたと指摘している。

 前代未聞の危機の中で一人で意思決定をするのは難しいうえに、間違いが起こると大変なことになりかねない。ただ、台湾の場合は意思決定にかかわる人の中に公衆衛生の理解がある人が多く、共通の知識と理解(それが危機感にもつながったのかも)の元、みんなで正しい意思決定ができた、といえそう。

 また、政権がきまりや方針を打ち出すだけではなく、国民がそれに答えて防疫を行ったことも成功のカギだった。しかも、それは刑罰やロックダウンのような強制手段ではなく、国民同士の協力によって成り立っていた。これができたのは、当初から政府が国民を信頼している姿勢を示し、国民もそれに応じた点が大きいと考えられる。かみくだいて言うと、「誰かが違反するだろう」などという先入観を持って強制的なやり方を選択するのではなく、みんな感染したくないのは同じだから「どのようにすればお互い協力できるのか」という視点で物事を決め、結果を国民全体で共有し、行動に移したことが防疫成功につながったといえる。

 

デジタルは社会の方向性を変えるものではない

 新型コロナ対策では、デジタル(マスクアプリやICチップいり保険証を使ったマスク配布)が注目を集めたが、筆者はデジタルは根本的な解決策にはおきかえられないことを指摘している(これ、デジタルが盛り上がりすぎて、あたりまえの点を見落としてしまう人が多そう。自分もそうなりがちだし)。根本的な解決策というのは、新型コロナ対応で言えば、手洗い、消毒、マスクをつけること、など。

 ただ、その根本的な解決策を正しく、多くの人に伝えることをデジタルは支えることができるという。例えば正しい手洗い方法の普及動画や、感染症対策にふさわしいマスクの選択など。そのうえで、デジタルは民主主義という社会の方向性を変えるものではない、と説明している。デジタルは手段であって目的ではない、と示唆しているようにも聞こえる。

 この点について、本書では、デジタルの中でも5GやAIに言及している。AIはそれ自体が目的でないため、「AIに人間の補佐をさせて、次世代によりよい環境を残す方策を考えることが大切」であると指摘している。AIが、人がどこへ向かうべきかコントロールするのではなく、我々がAIを通じてどの方向へ行きたいのかを再確認するということだ。また、それは人がAIを従えるとも言え、AIがやったことの責任は人間が負う、とも考えることができる。

 

公の精神をもつことが自分も社会も幸せにする

 筆者は公共利益をもたらすことを自分の価値の源にするべきと説いている。続けて「隣の人よりも少し上手にできたことに達成感を求めるよりも、隣の人と協力して社会問題を解決することのほうが、私は喜びの度合いが大きいと思います。」とも指摘している。

 公の精神を持つことの重要性は李登輝元総統も指摘されていて、読んでいてデジャブを感じた。こういう精神を持った方が国の中枢にいるというのは心強い。また、公の精神を持つことで、小さい競争から解放される(かつ、結果的に社会にもプラスになる)という意味で考えると、職業に関係なく公の精神を持つことは自分と社会の両方に幸せをもたらす可能性をもつ、と感じた。

 

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そのほか

 完全に個人の感想ですが、これまで読んだデジタル、AI等の本が結構こってりしていた(文体?メッセージ性?によるものと推察)一方で、この本は柔らかい言葉で深謀遠慮にとんだ話がされていて、スイスイ読めてしまいました。デジタルをツールとしたうえで、そのツールを使って社会全体をどう良い方向に導いたらいいのかを語っていたからかもしれない、と個人的に思います。

 

 ちなみに、本文で言及した李登輝元総統のお考え等は、秘書をされていた早川先生の著書にまとめられています。こちらも良い本でした。おすすめです。

李登輝 いま本当に伝えたいこと | 早川友久 | 政治 | Kindleストア | Amazon

 

 今回の読書メモは以上です。唐鳳さんの深謀遠慮にとんだ話があまりに聞き心地が良かったので、これを機に他の著書も読んでみたいと思います。

 本記事に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。