まめはな雑記

台湾迷の日本人による、旅行記、読書録、その他メモ。台湾以外のネタも少々含みます。

【読書録】人体600万年史(上)科学が明かす進化・健康・疾病

本屋さんにふらっと立ち寄ったところ、『人体600万年史』という本を見つけました。

新型コロナの影響からか、健康や感染症との攻防、人体に焦点を当てた本がまとめて陳列されていて、その中で見つけたものです。

ウイルスや病原菌が絡む歴史については、『感染症の世界史』や『銃・病原菌・鉄』あたりが有名かなと思いますが、今回は我々自身、具体的には人体について取り上げているこの本を読んでみることにしました。

余談ですが、最近本はもっぱらKindleで読むものの、本との出会いはいまだに本屋さんにあるから不思議です。

 

目次

 

 

この本は

ダニエル E リーバーマン (著), 塩原 通緒 (訳)『人体600万年史(上)科学が明かす進化・健康・疾病』、2015年、早川書房

https://www.amazon.co.jp/dp/B015SSE0XG/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

進化という観点から、人体を見つめる本。上巻では、類人猿と人類の違い、人類の中でも現生人類と旧人の違いは何か、などを解説している。

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(出所)Amazon

 

印象に残ったところメモ

※数字は、本の章番号とは一致していない。

1.適応とは

  • 人体は、できるだけ多くの子孫を持てるように、環境に適応した。必ずしも、人間の健康、長寿、幸福のための適応であるとは限らない。
    ※適応:①自然選択、②文化的進化
    ※自然選択の発生:①変異、②遺伝性、③繁殖成功度の差があること
  • 適応は、生き残れる子孫の数が変動しやすい時期(=形勢不利なとき)に強力になる。また、適応にはコストがかかる(トレードオフ)うえに、環境の条件は変化するため、自然選択は実質的に完ぺきには到達できない。

2.なぜ人類は直立二足歩行をしたのか

  • 【有力説】人類とチンパンジーの系統が分岐したころ(700~600万年前ごろ)、大規模な気候変動が起こっていた。その状況で効率的に食料を探し、手に入れるために直立二足歩行が有利だったから
    ※直立二足歩行だけではなく、食料の変化に伴い、歯や顏も変化した。
    ※危機下で適応が強力になる、というのは1.で述べられた通りで、辻褄も会う。
  • 身体、行動様式が人間らしくなったのは、氷河期のはじまりごろ(300~200万年前)。食料問題の解決のため、人類は狩猟採集民となり、良質な食料を入手・加工して食べた。ここで、食料の分配、道具作成、食料の加工が生まれた。
    →これにより、人類の身体の進化にも影響が及んだ;
    長い脚(歩行コスト減少);
    骨と関節の巨大化(歩行の負担軽減);
    ほっそりした体系(体重に対する表面積の比率を下げ、熱を逃がす);
    外鼻の進化(体温調節、乾燥防止、脱水症状防止);
    発汗による体温調整
  • 上述の進化により、人類の身体は持久走のための適応も強めた。他方、木登りの能力は低下した。;
    脚のばね(つちふまず、アキレス腱);
    頭の安定と三半規管の巨大化(走っても視界がぶれない);
    大殿筋の発達、うなじ靭帯(姿勢維持);

3.脳の発達

  • 【前提知識】脳と腸は成長・維持にエネルギーがいる器官
  • 人類は、食事を良質なものに切り替えることで消化に費やすエネルギーを節約し、その分を脳に回すように。
  • 脳の成長は、①急速に成長させる、②時間をかけて成長させる、の2通りがあり、人類は(対チンパンジー比で)生まれる前は①、生まれてからは②で脳を成長させる。

4.現生人類と旧人類との違い

  • 最も根本的な違いは、文化的変化を生み出す能力の有無。
    例:新しいものを作る、情報やアイディアを他人に伝達する
  • 脳の大きさはほぼ同じであるため、解剖学的構造の違いがある可能性。
  • 発話のための進化
    旧人類も言語はもっていたが、現生人類は顔のつくりが進化し、発話に長ける構造となった(ただし、その代償として、ときどきむせてしまうことがある)

5.農業と産業革命

  • 農業革命は、人類の文化的進化のひとつ。文化的進化はときとして自然選択を加速させさえする。
    ※現生人類に、旧石器時代以降進化がみられないように見受けられるのは、そもそも旧石器時代から現代までの時間が進化の結果が顕在化するには短すぎるから(ザ・歴史をみているひとの見解、という感じ。好き)。
  • 進化的ミスマッチ
    無数の文化的変化によって、遺伝子と環境との相互作用が変化。結果として様々な健康問題(ミスマッチ病)が発生。
  • ミスマッチ病:旧石器時代以来の身体が、現代の特定の行動や条件に十分に適応していないことから生じる病気
  • ミスマッチ病は、主に3つに分類される
    ①刺激が大きすぎることで生じる病気、②刺激が小さすぎることで生じる病気、③刺激が新しすぎることで生じる病気。
  • 有害な進化(Disevolution)。後退ではない。
    便益がコストを上回る限り、悪循環は続く
    例:食事に起因する病気(生活習慣病、虫歯など)

 

感想

 現生人類は、より多くの子孫を残せるように適応(進化)してきたが、それは必ずしも健康や長寿をもたらすとは限らなかった。進化は常にトレードオフで、例えば人類とチンパンジーの違いである直立二足歩行は、人類に手の解放と持久走の能力をもたらした一方、木登りや短距離走の能力を奪うことになった。また、現生人類は旧人と異なり発話にたける一方「むせる」などの苦しみを得ることになった。上巻はこの「適応」と環境のミスマッチにより現生人類にさまざまな健康問題が生じていることを指摘して終わっている。具体的なミスマッチは下巻にて解説することになりそう(まだ読んでいない)。

 個人的に意外だったのは、現生人類と旧人ネアンデルタール人)の脳はほぼ同じ大きさであり、脳の大きさで知能を測りきることができないということ。むしろキーになるのは脳の構造と神経の配線である可能性が高い。例えば、脳全体の大きさはほぼ同じでも、パーツに目を向けると、現生人類の頭頂葉と側頭葉は旧人のものよりも大きかったと言われている。この部分は感覚情報の解釈や統合、情報の学習や蓄積を司るため、この機能の発達が現生人類の特徴という説がある。ただ、旧人の脳そのものは化石として残らないので検証が難しく、引き続き地道な研究が必要となる。