まめはな雑記

台湾迷の日本人による、旅行記、読書録、その他メモ。台湾以外のネタも少々含みます。

【読書録】サピエンス日本上陸 三万年前の大航海

年末に、三浦しをんさんの『ぐるぐる博物館』を読んだ際、国立科学博物館の章で、海部陽介さんの『サピエンス日本上陸 三万年前の大航海』という本が紹介されているのを見かけました。

f:id:dou4hua1:20210216233913j:plain

(出所)Amazon

そのときは「日本人の起源はどこなのかを解き明かそうとする本なんだろうなあ」と思っていたのですが、調べてみると、その謎を解き明かす過程の中で、台湾から日本に船で向かう実験を行ったとありました。

 

台湾と日本(正確には西端の与那国島)は距離が近いため、泳いで横断するプロジェクトがあったと聞いたことはあったものの、船もあったとは知らず、気になって読むことにしました。

(よく考えたら、距離的に、日台間を「泳ぐ」よりも先に「航海する」の方が先に思いつきそうな気がしますが、実施されたのは泳ぐ方が2011年、航海する方は2016年からでした。)

 

▼日台間を泳いで横断したプロジェクトに関する記事
 (日本経済新聞、2011年9月19日)

www.nikkei.com

 

余談ですが、台湾と与那国島がどれくらい近いかというと、天気が良ければ与那国島から台湾の山並みが見えるくらいに近いです。台湾の蘇澳(東部の都市)から与那国島までの距離は約111kmです。

(出所)与那国島について | 与那国観光WEB

 

日本人の祖先はどうやって海を越えてきたのか?

本書では、人類(ホモ・サピエンス)はアフリカで生まれて全世界に広まったとしたうえで、彼らがある時から海に出始めたと述べています。

日本人の遠い祖先も、きっと海を渡ってきた人たちなのだろう…では、彼らはどのように海を渡ったのか…?

これが本書のリサーチクエスチョンのようです(実際のRQはもっと細かく設定されている思いますが、あくまで読者の視点でみたもの)。

これを検証するためのプロジェクトとして、台湾→与那国島を実際に船で渡るという実験が行われました。正式名称は、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」です。しかも、当時の技術で航海が可能だったのかを調べるために、限りなく当時(旧石器時代)に近い材質の道具を使って実験をしました。

 

七転び八起きの渡航実験

限りなく旧石器時代に近い条件で船を作り航海の可能性を検証することが目的のため、実験の中では様々な船がつくられました。

台湾の原住民の技術や植物を活かしつつ果敢に挑むも、草を束ねて作った船や竹で作った船は航海しきれず、試行錯誤が続きます。

厳密にいうと、船の材質による失敗というよりも、台湾と与那国島の間には黒潮が流れており、潮に飲み込まれずに船を進めることがマスト、ということが背景にありました。最終的には●●船(結果は本をお読みください)で黒潮を横断することに成功します。

 

個人的に印象に残ったのは、この船づくりの過程で人類学者に限らず各界のスペシャリストが英知を集めてこのプロジェクトに挑んでいたということです。

旧石器時代に近い条件で行うのは、船づくりだけでなく、その材料の収集、渡航(方角のチェックなど)も含まれます。そのため、船づくりの技術を持つ人、冒険家、考古学者、海洋民族学者、植物学者、プロのクルー(鳥や星から、方角、陸地との距離関係が推測できるとのこと)など各分野のプロが集まり知恵をしぼります。それぞれの分野からみた考察が本書で紹介されていることも面白いですし、なによりこれだけのリソースを集めて実験に挑んでいることに、単純に感動してしまいました。

 

そもそもなぜ祖先は海を渡ったのか?

また、実験の過程に加えて興味深いのは、著者による、そもそも「なぜホモ・サピエンスは航海をしたのか」という考察です。著者はその理由を「ホモ・サピエンスはやらなくてもいいことに情熱を注ぐ、不思議な存在」だからと述べています(詳細はぜひ本をお読みください)。いわれてみると、芸術や旅など、それがないと生きられないわけではないのに情熱を注ぐものが人類にはある気がします(というか、このブログもそのひとつです笑)。しかし、そういう情熱や好奇心こそ、実はわれわれをホモ・サピエンスたらしめる要素なのかもしれませんし、祖先に海を渡ろうと思わせた理由なのかもしれません。

 

ちなみに、本プロジェクトについては科博の以下のページに掲載されています。

見てみると、このプロジェクトを科博にある球体ドーム36〇で体験できるらしいです(この上映はまだ見たことがないので、ぜひ見てみたい)。

www.kahaku.go.jp

 

新型コロナでおうちにいる時間が長いですが、大規模な実験と祖先の冒険心について考えると、なんだか家にいるのに気持ちは開放的になって、不思議な気分になりました。

もっと浸ってみたいので、新型コロナがおちついたら、科博の球体ドーム36〇もぜひ見てみたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。