先日とある書籍を買おうと思いネットを見ていたところ、サジェスチョンに台湾に関する本が出てきました。
ちょうど、台湾のこと勉強しなおさねばなあと思っていたところだったので、衝動買いしてしまいました。
今回の書籍:
大東和重『台湾の歴史と文化 六つの時代が織りなす「美麗島」』2020年、中公新書
まず、この本の一番の面白さは、著者の方が書かれている通り、台北ではなく「地方」に焦点をあてた点にあると思いました。
例えば、原住民シラヤ族(注1)の話や、タオ族(注2)の話、さらにはタオ族と日本人研究者の交流など、台北に焦点を当てただけでは登場しえない内容に言及されていたのが印象的でした。
中でも衝撃的だったのは、タオ族の住む蘭嶼には核廃棄物の一時貯蔵施設が置いてあり、それはタオ族にとっては彼らの言葉で「アニト」と呼ばれる悪霊のようなものでありつつも、その施設があることで補償を得ることができ、それがタオ族の伝統文化継承に資している、という話でした。
これは、台北に焦点を当てた本には絶対に書いてないと思います。
注1:シラヤ族:平埔族の一つで、漢民族が台湾に移住する前に嘉南平野に住んでいた原住民族。平埔族とは、平地に住む原住民族のこと。しかし、オランダ統治時代に漢民族の台湾移住が進むと、平埔族は漢民族と同化が進んだ。シラヤ族は台湾で正式な原住民に認定されていないが、近年その文化が見直され、存在感を増している。
注2:タオ族:タオ族(達悟族)またはヤミ族(雅美族)とも呼ばれる原住民族。現在認定されている台湾の原住民族の中では唯一の海洋民族でトビウオ漁などが有名。ちなみに、タオ族含む、原住民族の文化については、以下の記事で紹介した本で、神話などを知ることができます。
また、この本は、歴史の事実だけを淡々と述べるというよりも、当時を生きた台湾人や日本人の発言や行動を通じて台湾を理解できるように書かれていて、それゆえ個人のメモや発言が本文の随所に記載されています。
例えば、上述の原住民族と日本人研究者が交わした手紙や、国民党独裁時代に緑島の監獄へ送られた人物のメモ、台湾発の選挙で当選した女性議員の思いなどがつづられており、情報収集力の高さに脱帽でした。
また、それらのコメントの原典も記載されており(自分がそういうのを確認したい質なもので)、本の厚さ以上の情報が詰まっていると感じました。
以下、私が印象に残った個所を(あまり書いてもネタバレになるので)箇条書きでまとめますと、以下のとおりです。
- 平埔族文化の衰退と再燃は、伝統の創造のひとつと捉えられる。しかも、漢民族の移住開始後、日本統治時代には急速に姿を消した平埔族の文化が、台湾人や日本人によって再発見されようとしていた。
※ただし、当時の日本にとっては、統治上の要請があり、研究のモチベーションに政治が絡んでいたことは否めない点、留意する必要がある。 - 台湾含む、華人人口の多い地域には、廟を中心とした信仰文化が残っている。しかし、中国ではプロレタリア文化大革命を経て歴史ある廟が数多く破壊されたため、祭祀は多くない。
- 戦時下の学問や文学を見る際には、戦争や政府の圧力が個々人にかけた圧力を勘案する必要がある。当時は、個人や文化、芸術よりも、国家が最優先された時代であったことを忘れてはいけない。
この本を誰かにおすすめするとしたら
台湾のことをちょっとは知っているけれど、もっと深く知りたいという方にお勧めしたいです。
台湾の歴史と文化を詳細に記述している本ですが、第1章が原住民族についての章なので、タピオカとかパイナップルケーキくらいしか台湾のことを知らない、という方にとっては「えっ?」となるかもしれません(それもそれで、衝撃的でいいと思いますが笑)。
例えば、台湾に旅行に行った時に、廟や二二八和平公園をみて「これってなんだろう?」とか、「日本と台湾の歴史的つながりって?」といったようなちょっとした疑問を抱いた人が読むと、「そういうことかあ~」と発見があるかもと思いました。
原住民族や鄭成功、日本政府による植民地統治、国民党による独裁時代、民主化時代など、地理・時間軸に、様々な切り口から台湾を説明し、理解を深めてくれる本だと思います。